犬は繊細?ストレスを抱える原因と解消法

犬は繊細な生き物? コラム

人は生きている限り、現代社会のストレスと向き合って生活していかなければいけませんが、それはペットにとっても同じこと。むしろ、動物社会から人間社会に変わったことでよりストレスに敏感になっていることでしょう。そのままストレスを溜め込んでいると、やがて病気になったり吠えるなどの問題行動につながってしまいます。

 

なにより、愛犬には楽しく自由に過ごしてもらいたいですよね。今回は犬のストレスに焦点を当てて、原因やサイン、ストレスの解消方法についてご紹介します。

1犬は繊細な生き物?ストレスになる原因

犬はもともと自然界に生きる動物なうえ、捕食する側でもあり捕食される側でもあった経緯があります。そのため人間にとっては何気ない事でも彼らは敏感に反応してしまい、そのまま放置しているとやがて気疲れしてしまい、精神的に摩耗していくでしょう。

 

まずは犬にとってどんなことがストレスになるのかについて見ていきます。

1.1 犬を一匹で留守番させる

犬は元々群れで行動していた歴史があるため、基本的には一匹で暮らせるようにはできていません。そのため飼い主様がいないという状況は、本来の生物としての習慣から外れており、恐怖感や孤独感などの精神的ストレスの要因となります。

 

これは例えば犬用のハウスがあったとしても例外ではありません。確かに犬の居場所を用意することで、ある程度は留守番させても恐怖感は和らぎますが、それでも孤独感は拭えません。まずはハウスを用意する、その上でなるべく長時間家を空けないようにしましょう。

 

また、例えば外泊などで数日家を空ける場合はペットホテルを利用したり、家で留守番させたい場合はペットシッターに来てもらうなどの対策をしておくと犬も安心します。大事なのは、犬は一匹で生きていけるようにはなっていないという事です。

 

また、数日ではなくあくまで長時間程度ならば、留守番の経験を積ませておくことで対応できる場合もあります。分離不安の疑いがないなら、留守番の訓練をさせておいておくのも良いかもしれません。

1.2 思いっきり遊べるようなことがない

犬は散歩や運動が大好きで、体を思いっきり動かしてストレスを解消させます。裏を返せば、そういった遊べる環境に置かれていないと、段々ストレスが溜まる上に肥満になったり怠けものになっていきます。

 

チワワのような小型犬の場合は部屋のサイズにもよりますが、散歩させつつ家の中で適度に遊ばせるだけでもストレス解消に繋がります。しかし、中型犬以上にとっては日本の家はやや狭く感じるため、散歩以外ではストレス解消になるほどの運動はできません。

 

ただ散歩させるだけでも違いますが、散歩したいという欲求と遊びたいという欲求はあくまで別のものだと認識しましょう。その上で、その仔にあった遊びや散歩が必要です。遊ばせすぎや歩き過ぎは却って犬の負担になり、ストレスの要因となります。

 

1.3 犬にとってストレスになる環境や音沙汰

犬は実は視力が悪いって知っていましたか?より正確に言えば、犬は焦点を合わせる能力が低く、人間で言うところの0.2〜0.3程度の視力しかない事が分かっています。分かりやすく例えるなら、極度の近視という事ですね。また、色も緑と青の2色しか識別できません。その代わりに光や匂い、音には凄く敏感に反応します。

 

人間にとっては何気ない車の音や光でも犬にとってはストレスになるのです。また、可聴域(聞こえる音の周波数)も人のそれより遥かに広く、人が16〜20.000Hzなのに対して犬は65〜50.000Hzだと言われています。つまり、人よりも高い周波数を聴けるため、超音波を拾ってしまい、人間の世界はとても騒がしい環境となっているのです。

 

また、犬は経験によって知識を得ると同時にトラウマも植え付けられます。シャワーのあとのドライヤーが嫌いな犬はドライヤーの音だけで、来客=侵略者と捉えている犬はチャイムやドアの音だけでも怯えてしまいます。

1.4 人間同士(飼い主様とその家族など)の不仲

先述したとおり犬は群れで生活する生き物で、ペットの犬にとっては飼い主とそのご家族が群れの上位に位置する存在です。その習性ゆえ、群れ同士のトラブルにはすごく敏感です。家族間での口喧嘩等のトラブルは犬にとって、この先の生活を左右するものだと認識しているため、多大なストレスを抱えてしまいます。

 

とくに身内であれば見知った声なので、怒号の飛び交いには音量の大きさも相まって怯えてしまいます。また犬は感受性の高い動物としても知られており、家族の感情を察知する能力に長けています。落ち込んでいるときなんかは、犬が慰めてくれることも珍しくありません。

 

たとえ口喧嘩でなくても、家族の険悪な雰囲気は感じてしまうでしょう。人間同士のトラブルの解決は容易でない場合も多いですが、犬を不安にさせないためにもなるべく早く仲直りしてくださいね。

1.5引っ越しなど生活環境の一新

犬にとって家は縄張りであり、基本は犬と家族だけの居場所です。そんな居場所が急にガラリと変わってしまっては、ストレスを感じてしまうのも無理はないでしょう。まして、人間が引っ越しするなんて犬にとっては理解しようがありませんし、「急に見知らぬ土地に迷い込んだ」と思ってしまいます。

 

それに引っ越しで感じるストレスは居場所だけではありません。長距離移動なら車の音が、地域が変われば気候が、静かな土地から都会に行くなら騒音がストレスになってしまいます。また、犬によっては散歩コースが異なるという理由で不安になることもあるでしょう。

 

引っ越ししてしばらくは犬と一緒に寝るなど、飼い主とともに暮らせる安心感を持たせることが大切です。また、飼い主の緊張は犬にも伝わります。引っ越しして気持ちがはやるのは仕方ないことですが、犬の前ではどっしりと構えておくと犬も心が落ち着きます。

1.6 去勢や避妊をしていない

本来動物にとって交尾は子孫の繁栄であり、いつ死ぬともわからない過酷な世界で種族を残すために必要な行為でした。犬にとってもそれは同じで、去勢や避妊などの手術を行っていない場合は発情期が到来します。

 

もろもろの事情で手術をしていない犬を飼っている場合、交尾させないためには散歩の時間を調節したり、家から出さないなどして異性の犬から距離を置かせるしか対処法がありません。しかし、それはあくまで交尾をさせないために人間が行う犬に対する強制に等しいもの。

 

犬からしてみれば、性欲があり交尾したい欲求に駆られながらその行為を無理やり禁じられているのと同じです。当然、その行動は犬にとって凄まじいストレスとなるでしょう。発情期のオス犬が脱走してメス犬と勝手に交尾してしまうリスクも生じてしまいます。

 

また、早めの手術を行っていないと、性欲から来ていた行動が習慣化します。去勢や避妊はあくまで飼い主様の任意ではありますが、ストレスや望まぬ出産をさせないためにも早い段階での手術をおすすめします。

2犬のストレスによるサイン

ストレスのサイン

犬は人間にとっては些細なことでもストレスになるということがこれでご理解いただけたかと思います。そして、人間と同じようにストレスによって体調を崩してしまったり、精神的に不安定になり問題行動を起こしてしまうこともあります。私達なら、現代は娯楽が溢れており、自分の意志だけで楽しんだりストレスを解消できますが、犬はそうはいきません。

 

蓄積されたストレスはやがて万病の種となって襲いかかるでしょう。そうなる前に、犬がどれほどのストレスを抱えているのかを知らなければいけません。ここでは、ストレス度別に現れるサインについて見ていきます。

2.1 ストレス度(小)

あくまで欲求を解消したい程度の軽度のストレスなら、人間にもよくありますよね?犬も同じで、ほんの少しのストレスなら日常生活に支障はなく、サインもカーミングシグナルと呼ばれる肉体を使ったコミュニケーションに留まります。ここではカーミングシグナルのうち、飼い主への要求行動と不安を落ち着けるために行う仕草についていくつか紹介していきます。

 

・体を震わせている

知らない人や犬が接近してきたときに行う仕草で、緊張や拒絶を意味します。

 

・地面の匂いをかぐような仕草

自分や対象の気分を落ち着けたい時に行う仕草です。

 

・あくび

人間の場合は眠くなったり退屈になるとあくびをしますが、犬にとっては気持ちを落ち着ける深呼吸のような仕草です。あくびをしている場合、不快感やストレスを感じてるケースが多いです。

 

・頭を振る

主に不快感や不安感、ストレスなどのマイナス感情を表す時に行う仕草です。

 

先述したとおり、これらの仕草を行うのはあくまで日常行為のひとつであり過敏に反応する必要はありません。ただし、なんらかの不満や不快感を感じてる時は状況に応じた対処をしましょう。

2.2 ストレス度(中)

さきほどのサインはあくまで「ちょっとストレスがあるから解消したい」というような軽い要求でした。しかし、飼い主がその要求を無視し続けると次第にサインも過激なものとなっていきます。

 

・うなる

・吠える

・噛み付く

・逃げる

・呼吸が激しい

 

これらのサインは要求を飲んでくれない飼い主に対する抵抗です。このサインを無視、あるいは問題行動として叱ってしまうと犬は更に過激な行動をしたり、最悪の場合見知らぬ人に攻撃する可能性があります。問題行動はしつけがなっていないのではなく、あくまで飼い主に自分の意思を分かって欲しいだけです。そのことを念頭に、どうしてもこれらのサインが無くならないようであれば、獣医師に相談しましょう。

2.3 ストレス度(大)

中程度のサインを更に無視してしまったり、慢性的なストレスを抱えているとやがて体調を崩してしまったり精神的に不安定な状態に陥ってしまいます。

 

・上述したサインを繰り返し行う

・下痢や嘔吐

・元気がなく、散歩や運動に興味を示さない

・皮膚が炎症を起こすほど過剰になめる

・自分の尻尾を追いかけたり、自分の足を噛む

・トイレではないところで粗相を繰り返す

 

上記のように、問題行動のみならず体調面での不調が増えていきます。ここから更に病気になったり、抱えていた病気が悪化することもあるため、早急に動物病院につれていきましょう。

3ストレスが原因で発症する犬の病気

ストレスも軽いうちならともかく、積み重なると危険な兆候が見られるということが分かりました。ストレスは血尿や嘔吐に繋がり、そしてそこからさらなる病気へと発展してしまうのです。しかし、血尿や下痢はあくまでサインであって本格的な病気とは言えません。

 

言い換えれば、ストレスによる病気は別にあるということです。

では次に、ストレスが原因で発症することがある病気について見ていきましょう。

3.1 肥満症からなる生活習慣病

人間社会でも近年になって急激に増えて問題になってる生活習慣病ですが、実は犬も似たような事例は度々報告されています。その要因の一つとなっているのがストレスによる肥満で、いわゆるストレス太りです。日々のストレスの積み重ねが食欲の増加となって表面化し、更に運動不足も重なると肥満は加速する一方です。

 

肥満になると高血圧、糖尿病、高脂血症といった人間と同様の病気や症状が現れる他、そこから内蔵や関節に障害が起きることもあります。もちろん、肥満はご飯の与えすぎや運動不足も原因ではありますが、この2つが起きる抜本的な要因がストレスだったというケースが非常に多いのです。

 

特に運動不足はそれ自体が犬にとってストレス、それが食欲になって肥満になって余計に運動不足に……と負のスパイラルに陥ることもあります。忙しい毎日でも、犬と一緒に運動してお互いにとって健康的な生活を心がけましょう。

3.2 分離不安やうつなどの心の病気

犬を留守番させる事が多かったり、忙しいあまりに構ってあげれない時間が多いと犬は孤独感に苛まれ、分離不安症やうつなどの心の病気になってしまいます。

 

・飼い主がいない時にクッションを噛みちぎったり、物を壊すなどの破壊行動

・飼い主が外に出かけようとすると吠えたり阻止しようと噛み付いたりする

・自傷行為や意味のない行動を繰り返し行う

 

これらの行動が見られる際は心の病気を疑った方が良いでしょう。また、過去に海外ではうつ病による死亡事例も報告されています。この時は1ヶ月も飼い主と会えない状況であったということで、流石にここまで長期的に家を空けるケースは少ないかと思いますが、心の病気で自死してしまうこともあるという事は覚えておいてください。

3.3 病気が悪化する原因にも…

病は気から、ストレスは万病のもとと言われるように、精神的なストレスは身体の免疫力の低下を招きます。その結果として、もともと軽度であった病気が悪化して重症化することも……。

 

そもそも軽度の病気は、適度な運動や適切な食事などの健全な日常を過ごすことで治すことも多く、逆に言えばそれらを怠ると治らずに悪化してしまいます。もちろん、獣医師による投薬等のサポートが必要になることもありますが、なによりも犬自身の気持ちが治療には必要不可欠。犬の気持ちに寄り添い、ストレスを与えないようにすることが大切なのです。

4犬のストレス解消法

ストレス解消法

さて、ストレスを溜めることがどれほど危険なのかが分かったところで、いよいよ具体的なストレス解消法についてお話していきたいと思います。どれも難しいことはなく、あくまで犬と楽しく暮らしていく上で当たり前のことです。

 

ストレスを溜めないように……とあまり考え込まず、「大好きな愛犬と一緒に遊ぶ!」と楽しむことが大切です。

4.1 毎日適度な運動を

人間社会の娯楽とは無縁の犬にとって、最も楽しくストレス解消になるのは体をめいっぱい動かして遊ぶことです。散歩はもちろん、ドッグランやアジリティなど楽しく運動できる時間を設けましょう。飼い主と犬の距離が近くなれば、その分飼い主との絆も深まりますし、家族と一緒に楽しく運動できれば犬にとってこれほど幸せなことはありませんから。

 

ただし、過度な運動は足や関節に負担をかけて怪我をしてしまいます。犬種やサイズによって適切な運動量は異なりますし、同じ犬種であってもある程度の個体差は出てきます。まずは20分程度の軽い運動や散歩から始めて、犬の体調や元気などのコンディションを見ながら調節してあげましょうね。

4.2 スキンシップによるコミュニケーション

犬にとって飼い主とはリーダーであり家族であり、最も信頼するパートナーです。家族とのコミュニケーションは犬でも人間でも大切なことで、愛情を確かめるのにこれ以上効果的なものはないでしょう。

 

スキンシップは言葉で会話できない犬と人間が唯一共有できる愛情表現なのです。もちろん、1人…もとい一匹になりたい時に構いすぎるのはいけませんが、「構ってー」とすり寄ってくるときはしっかり構ってあげましょう。

4.3 噛むタイプのおやつやおもちゃも効果的

犬はストレス解消のために何かを噛むという行動を起こしやすく、噛みたい欲求をおやつやおもちゃなどで発散させることも効果的です。ただし、おやつは与えすぎると身体に悪いので少なめに。基本はロープやボールで遊ばせるようにしましょう。

 

また、可能であれば犬とのスキンシップを取りながら遊ぶことで良いコミュニケーションになります。

4.4 新しい犬が来た時は先住犬優先

犬の多頭飼いをしたい場合、基本的には先住犬の気持ちを優先させます。これは新しい犬にとっては初めての場所であるのに対し、先住犬はより長く縄張りを守ってきた先輩であるという上下関係が生まれるため。

 

もちろん、互いを仲良くさせることは必要不可欠ですが、初めはそう上手くはいきません。特に、先住犬は自分のお気に入りの場所が後住犬に取られると最悪喧嘩になってしまいます。まずは先住犬を優先しつつ、互いが仲良くなるのを見守りましょう。

5ストレスは万病の元!毎日を楽しく過ごしてもらうために

犬という種族は人間と同じく犬だけの社会を構築して、その群れの中で日々を生き抜いてきました。例えペットショップや家で生まれた犬であっても、その本能が消える事はありません。人が一人では生きられないように、犬も群れのなかでないと不安や孤独感に苦しんでしまいます。

 

ペットは家族も同然というのは、ペットからしても同じなのです。生涯共にいる大切なパートナーとして、犬のストレスと正面から向き合っていきましょう。